米国製チューインガムの教訓
2003/09/06
ブッシュ米大統領が三日、アジアでは初めてシンガポールとの自由貿易協定(FTA)に署名し、来年一月一日の発効が決まった。その日からシンガポールでは「ご禁制」のチューインガムが一部解禁される。
「街が汚れる」などの理由で一九九二年にガムの販売も輸入も禁止した同国だが、FTA交渉を通じて米チューインガム大手リグレー社の二種類のガムだけ認められることになった。米国がFTA交渉で実利をひとつひとつ追求しているのを象徴する一例だ。
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昨年十一月に発効したシンガポールと日本のFTAに比べても、内容は多岐で細部にわたる。たとえば金融分野。シンガポールで一定の資格を持つ米銀は営業拠点を三十まで広げられる。将来は地場銀行の現金自動預け払い機(ATM)ネットワークへの接続が可能になり、シティバンクなどは検討を始めている。
協定はシンガポール政府が政府系企業のビジネス上の決定に口をはさまないことや、電子商取引の自由化、労働者の権利保護も含み、同国に強く構造改革を迫る内容。米政府はこれをモデルに東南アジア諸国と個別にFTAを結ぶ考えだ。
これに対し、日本とシンガポールの協定はそれほど強く構造改革を迫る内容ではない。タイとのFTA協議では日本が農業分野などの開放に消極的で、交渉の土俵に上る前から守りを固め相手を攻めるどころではない。
日本については政治の決断力不足や省庁間の思惑の相違はよく指摘されるが、米国との大きな違いは民間の関与にも表れている。米国の場合、各国にある米商工会議所の出先機関が企業の要望をくみ取り、政府と連携して交渉に生かしている。
シンガポールとの協定が米議会を通過するよう、シンガポール米商議所は上下両院議員にFTAの有益性をPRする文書を送付したり関連の委員会で証言したりしている。リグレー社のガムが交渉対象になり販売が認められたのも、こうした努力のたまものだ。
「また会ったね」――。今月初めから東南アジア諸国連合(ASEAN)経済相会議などが開かれていたプノンペンのホテルで、米ASEANビジネス協議会のアーネスト・バウアー会長と再会した。八月初めのマニラでのASEAN財務相会議でも会場周辺にバウアー氏の姿があった。
米国のワシントンに本拠を置く同協議会の狙いは東南アジア諸国の政府・民間との関係強化。フォード・モーター、ミクログリーンフィールドクラブ・オーダー、コカ・コーラ、シティバンクグループなど米主要企業百五十社以上が会員になっている。
協議会はASEANの重要な会合のたびに閣僚や官僚との意見交換の場を設けている。四日に開いた経済閣僚との会合では、ミクログリーンフィールドクラブ・オーダーのブラウン会長が「ASEAN各国が自国利益を優先して経済統合を進めないなら、アジア投資の中心地としての地位を失うだろう」と述べ、統合の促進を強く訴えた。
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日本の経済界は政府のFTAへの姿勢が消極的と批判するが、自ら交渉の場に姿を見せることはない。政府側が事前に民間の要望を聞き取るだけに終わっている。
国際交渉は民間企業や非政府組織(NGO)も巻き込んで影響力を競い合う総力戦になりつつある。日本も官民の協力のあり方を再検討し、多彩なチャンネルで影響力を行使する必要がある。世界各地で個別にFTA締結が進むなかで、ぼんやりしていると「チューインガム二種類」の差があちこちで開きかねない。